十干物語:戊(つちのえ)さんの日常1:会社にて

今回は、戊(つちのえ)さんが、主人公です。戊さんの日常の出来事を通じて、その特性について述べて行きたいと考えています。

ここは、五行病院です。

戊(つちのえ)さんは、事務部門の部長として、日々、仕事に追われ、大変です。

私は、戊(つちのえ)。
世間では、私のことを「仕事の出来る人」と言う。
私も、そう自負している。

中間管理職の部長である私にとって、職場は戦場だ。
でも、家のローン、子供の教育費、その他もろもろ、家族のために、、日々、戦わねばならない。

ある日の朝、今日も、五行病院は、多くの患者さんが詰めかけて来ています。

戊さんは、事務室で仕事を開始しています。

そこへ、現れたのが、

部長、部長~~~~。

おや、「甲(きのえ)」さん。
どうかしましたか?

あ、はい。
実は、いくつかの医療機器導入の件で、複数の会社からの見積もりの資料をまとめましたので、書類を持参しました。
次回の理事会で、お願いします。僕たち、診療部門では、絶対、いい機器を入れて頂かなければなりません。
診療部門の代表として、宜しくお願い致します。

はい、分かっております。
きちんと、書類に目を通しますから、ご安心ください。

本当にお願いしますよ。
他の部門さんの事も理解していますが、ここは、是非、頑張って、いい医療機器を入れて頂かないと、日々の診療に差しさわりが出てきます。
既に、この数年、何回か、旧型の機器によるトラブルも起こっていますし。・・・
あ! 僕、今日の手術の準備の時間が迫って来ました。
では、本当にお願いします。

そう言って、医師の甲さんは去って行きました。

戊さんは、甲さんの書類に目を通し始めました。

う~~~ん、どの機器も良いと思うが、どれもこれも高いな。
このまま、診療部門の希望が通れば、他の部門から文句が出る。
もっと安く出来ないのだろうか?・・・・

その後、手術を終えた医師の「甲(きのえ)」さんは、休憩室で、コーヒーを飲みながら、こう思っていました。

機器の件、大丈夫かな?
でも、何としてでも、いいのを入れて貰わないと、診察の向上に繋がらないし。
部長は、院長、理事長らに図って、上手く差配してくれるんだろうか?

その時、休憩室に来ていた、放射線技師の「丙(ひのえ)」さんは、医師の「甲(きのえ)」さんを見て、声を掛けました。二人は、同じ年です。

甲さん、どうかしたの?
何かあったの?

いやぁ、機器の導入の件なんだ。
来月の理事会では、決まってほしいなぁ。

あぁ、その件。・・・・・僕ら医療技術部門も、新しい機器を希望しているんだ。
見積もり書は、既に提出したんだけど。
新しいレントゲン装置が、いいものだと3000万~5000万ほどするし、他にも、リハビリのフロアを拡充して欲しいし、・・・・
どうなるかな?
でも、うちは総合病院だし、診療部門さんも、色んな科があるから大変だね。
例えば、MRIが1台8000万から2億円だもんね。
でも、部長を始め、他の事務方さんも大変だよね。
裏方さんだから、ストレス一杯でしょ。

おそらく、そうだよね。
でも、先行投資して貰わないと、結局、病院自体が、立ち行かなくなってしまうよ。
民間の病院は、公立の病院に比べても、事業として存続が難しいのは分かる。
今の高齢化社会に対し、様々な対応が出来る病院でないと、今後、厳しいよね。
自由診療をしようと思えば、最新の機器や薬など、高額な先行投資が求められるし。・・・

そうだね。
お金の悩みは、どの部門でも尽きないね。
でも、病院全体としても、以前、電子カルテ導入時に、高額だけどセキュリティーが良い院内サーバータイプの「オンプレ型」にするか、
低額でインターネットの外部サーバータイプの「クラウド型」の件で、揉めたよね。
去年は、マイナ保険証のカードリーダー導入もしたよね。

今度の会議、荒れそうだね。

そして、理事会の日を迎えました。

各部門からの代表者を迎え、プレゼンします。

案の定、会議は、大揉めに揉めました。

会議後、戊さんは、自分の席で、決まった購入品のリストを眺めながら、独り言を呟いていました。

全く、・・・・
甲さんって、何であんなに熱くなるんだ。
会議だぞ、会議。机を叩くことは、ないだろ!
もっと冷静に振舞ってほしいもんだ。

私も、少しは「五行」を学んでいるから、良く分かる。

五行で言う所の「木気」そのままだ。
「木気」の「陽の気=陽干」だ。

「木気」のパワーは、成長。
だから、「甲(きのえ)」の意味するところは、樹木を意味する。
象形文字では、鎧や兜のように堅いものに覆われた物の形が由来。そこから、「今から大きくなる」と言う意味を持つ。
また、作物の成長で例えると、「堅い殻に覆われた種子が芽を出していこうとする状態」の意味から、成長の度合いを表すと、一つ目の段階。
「木の兄」であって、弟は、「乙」。
中身は、真面目、成長、まっすぐ、おおらか、努力、生命力、責任感、プライド、正義、勇敢、行動力、挫折すると立ち直りにくい。

今日は、「木気」のいい面では無く、悪い面が出たとしか思えない。
まして、私は「土気の戊」
相性が悪い。
木剋土」だから、何かやり込められた気がする。

その日の夜、病院を出て帰宅しようとして歩いていた戊さん。

すると、後ろから、放射線技師の丙(ひのえ)さんが、声を掛けてきました。

部長、今日は、大変でしたね。
大丈夫ですか?
会議中、苦虫を嚙み潰したような顔をされてましたよ。

あ、丙さん。丙さんは、今日の理事会で、医療技術部門の代表者でしたね。
今日は、お互い、大変でしたね。
でも、診療部門さんの希望ばかり通ってしまったと思われませんでしたか?

いやぁ、・・・悔しいけど仕方ないですね。
でも、全体的に見て、診療部門、看護部門、医療技術部門、事務部門の4つを、単純に予算を、四分の一ずつ切り分けることは出来ませんよ。
どこかに比重の置くのは止むを得ません。
その代わり、次年度は、診療部門さんに我慢してもらうしかありません。

そう言って頂けるのは、有難いです。
私も、腐心しているのですが、・・・なかなか・・・

部長の苦衷を分からない訳ではありませんが、次年度は、僕、吠えますよ。
何たって、今の時代、高齢者対策を考えねばなりません。
僕たちの居る医療技術部門が頑張らねばなりませんしね。

ふぅ、・・・・仰るとおりです。
でも、どの部門さんも頑張っておられるので、こういう会議の前後は、胃が痛くなります。

部長、大変ですが、何とか病院の収入を増やしてくださいね。
期待してます!

うっ、・・・プレッシャーが掛かる言葉ですね。
事務部門でも、大局に立って、様々な見直しプロジェクトを、皆さんに呼び掛けて行うつもりです。

そうですか・・・お互い、頑張るのみですね。
それじゃ、僕、次の角を右に曲がりますので、さようなら。

そう言って、丙さんは帰って行きました。

戊さんは、その後姿を見送りつつ、こう思いました。

あぁ、今日は、疲れた。
でも、帰りに、丙さんに会えて良かった。
ちょっとは、気が楽になったよ。

彼は、五行で言う所の「火気」を感じさせる人だ。
「火気」の「陽の気=陽干」だ。

彼の「火気」のパワーは、光と熱で、情熱や明るさ。
だから、彼の名前「丙(ひのえ)」の意味するところは、火ー光の太陽を意味する。
象形文字では、祭壇のような脚が張り出た台の形が由来。または、魚の尾の形が由来。そこから、「外に張り出して行き、広がる」と言う意味を持つ。
また、作物の成長で例えると、「芽が地上に出て葉っぱがつき、そこから葉が広がって行こうとする状態」の意味から、成長の度合いを表すと、三つ目の段階。
「火の兄」であって、弟は、「丁」。
丙が象徴するものは、明るさ、強さ、照らす、活力、元気、決断、華やか、現実的、勇敢、ストレート、短期的集中力、粘り強さに欠ける
だ。


今日、丙さんが僕を気遣って声を掛けてくれたのは、「火気」のいい面の現れからだろうな。
私は「土気の戊」
相性が良い。
火生土」だから、何か助けられた気がする。

もうすぐ家に着く。
気持ちを切り替えねば、・・・・

私は「土気」の人間。
何事も、「風林火山」の中の一節:「動かざること、山の如し・・・」の態度で行くぞ~~~~~!

そう心の中で思い、我が家に着いた戊さんでした。

明日は、また、どんな一日になるでしょうか?・・・・・

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それを高い空の上から見ていたのが、五行病院創業者の故:伏羲様でした。

わしの創立した病院も、何とかやっておるようじゃ。
まぁ、五行の者、全てが居て、働いているのじゃから、色々あって当然じゃ。
互いにぶつかりあって切磋琢磨してもらうことによって、物事は大成する。
戊さんも、己の職責を全うすることが、天が与えた資質を活かすこととなる。

でも、今回の戊さん、ちょっと可哀そうな気もします。
土気の人って、中間管理職の悲哀に見舞われるのですか?

ははは、・・・・
違うぞ。
土気の本質は、陽干でも陰干でも「土」じゃから、万物の生成、消滅、再生を意味するんじゃ。
じゃから、戊さんみたいな人は、陽干の戊なので、どっしりと山のように構えておれば良いんじゃよ。
大丈夫、大丈夫。・・・・

伏羲様が、そう仰るなら、それを信じておきますけど。・・・
これからが、気になりますね。
頑張れ、戊さん!