【気学】「六十四卦物語ー5:水天需(すいてんじゅ)」

ここは、京都。河原町三条の「三条大橋」です。昔で言うならば、「東海道五十三次」の、最終地点に当たります。昔も、今も、多くの人が、この橋を多く行き来します。三条大橋にまつわる有名な逸話(いつわ)といえば、欄干の擬宝珠(ぎぼし)に遺る刀傷です。幕末の「池田屋事件」の際につけられたものであると言われますが、橋の南側の西から2つ目の擬宝珠が、最も簡単に見つけることができます。あらら・・・そこに、不思議なお爺さんが居られます。さて、今回も、どんな事件が起こりますでしょうか?

三条大橋擬宝珠
三条大橋擬宝珠

ふう~~~。
ここは、相変わらず、人が多いのう。
わしのような者には、人が多すぎて困る、困る。
こんなに、人が多くては、ぶつかって、こけてしまうではないか。・・・
あ~~~~、・・・・・

お爺さんは、三条大橋を西に渡っている時、反対から来た団体さんにぶつかって、こけてしまい、思わず、尻もちを着いてしまいました。それを見ていた、後ろから歩いていたスーツケースを持ったお嬢さんは急いで、お爺さんを助け起こしてくれました。

お、お爺さん、大丈夫ですか?

いやぁ、大丈夫じゃ。何とか立てる。よいしょっと・・・・・
ひゃぁ~~~、しかし、驚いたぞ。
ほんに、この界隈は、危ないのう。

お嬢さんは、お爺さんを気遣って、三条大橋西詰め、ちょうど、「弥二さん喜多さん」の像まで一緒に歩いてくれました。歩きながら、二人の会話が始まりました。

お爺さん、ここは、人も多いし、気をつないと。・・・・
お爺さんみたいに、地方からの観光客さんで、お年寄りは、ゆっくり歩かなきゃ駄目ですよ!
私みたいに、若い観光客でも、この人の多さは、気を付けないと難しいわよ。

はぁ~~~?
わしを、誰だと思っておる?
これでも、地元民じゃ。
お嬢さんより、ずっとずっと前から、京都に居るぞ。

あぁ、そうなんだ。
お爺さんって、地元民なんだ。どおりで、京都っぽい恰好をしてるのね。
私、今日から、京都に来てるんです。
3度目の京都なんですよ。

ほう、そうかのう・・・・
京都っぽい恰好と言われても、これは、わしの普段着じゃしな。

何か、渋い恰好ですね。
作務衣かな?それとも、御茶をされてる方の恰好なのかな?
それより、お爺さん、京都で行ったら、いい所ってあります?

お嬢さん、京都で、いい所と言うのは、本人の求める先で違うぞ。
何を求めておるんじゃ?

京都は、古の文化の残っている所ですよね。
普通では、誰もが知らない所が、いいです。

ぷっ・・・
京都病にかかっておられるかのう?
誰もが知らない所なぞ、こんな時代に、なかなか、有り得んのう。
自分だけ知っているつもりでも、既に、皆は知っておるもんじゃよ。
それより、自分が、京都で何を感じたいか、それを最大の目的とした方が良いんじゃよ。

ふ~~~ん、そういうものですか。
言われてみれば、そういうものなのかも知れませんね。
本でもネットでも、情報が、行き渡ってるものですよね。・・・

私、実は、今の仕事を辞めたいと思って、それで次に繋がるものを探しているんです。出来るならば、伝統工芸的なものに携わりたいと思って、ヒントを得るために、数年前から、京都を訪れています。

ほう・・・・
転職のお悩みか。
確かに、京都には、色々な伝統工芸があるがのう。
今まで、どんな所を訪れなさったかのう?

清水焼き、組紐、和菓子、西陣織、竹細工、・・・・かな?
そういう所の工房に行った事があります。

ふ~~~ん、そうか。
所謂、「一日体験」じゃな。

そうです。
あれこれあって、楽しいですね。
京都には、たくさん神社やお寺があるので、「朱印帳」が、すぐ朱印で一杯になります。

そうか、若いうちに、色んな事を体験するのは良いぞ。
で、なぜ、転職を考えなさっておられるのか、訳を聞いての良いかな?

今の仕事は、販売職です。もう3年になります。人に接するのは、嫌ではないけど、手に職、と言うか、技術を身に着けたいと思っています。それで、これからの時代は、インターネットは欠かせないので、プログラミング、ウェブサイト制作、動画編集なんかの仕事をしたいと考えて、スクールに通う事を考えています。

そうか、そうか・・・・
どれ、お嬢さん。
助けて貰ったお礼に、サイコロを振ってみんかのう?

サ、サイコロ?・・・・

サイコロと言っても、そこら辺にあるサイコロでは無くて、「易」占いのサイコロじゃよ。

あ、筮竹ジャラジャラのやつですよね。

そうじゃ。
ジャラジャラのは、本筮法とか中筮法と言う。
わしが得意なのは、略筮法と言って、サイコロを3つ振って「卦」を立てるものじゃよ。
簡単な方法だが、結果は、同じ事じゃよ。

何だか、面白そうですね。
これも、一種の「京都体験」ですね。
やりたいです!

三条大橋
三条大橋

こうして、二人は、三条大橋西詰めから、鴨川の河川敷に降りていきました。この辺り一帯は、四条大橋まで、カップルが、河川敷に等間隔で座っている有名な所です。座る場所を探して、先斗町(ぽんとちょう)の歌舞練場の辺りまで歩いていると、偶然、空いている場所がありました。二人は、他のカップルのように、そこへ腰を下ろしました。作務衣(のような)姿のお爺さんと、スーツケースを持ったお嬢さん。傍から見れば、とても面白い組み合わせに見えたことでしょう。

お爺さんは、二人の間に、小さな風呂敷を敷きました。

そして、お嬢さんに、3つのサイコロを見せて言いました。

これが、略筮法で使うサイコロじゃ。
2つは、八面体。もう一つは、漢数字の六面体じゃよ。
占い方はなぁ、心の中で、真剣に願いを唱えるんじゃ。
但し、具体的な願いを唱えること。
二者択一のようなものがいいのう。
では、始めるとしよう。・・・・

お嬢さんの手に、サイコロが渡されました。お嬢さんは、暫(しばら)くサイコロを見つめた後、目を閉じました。そして、長い間、手の中で、ゆっくりとサイコロを転がしています。

(私は、転職するべきでしょうか?・・・・)
えい!

風呂敷の上に、サイコロが転がりました。

需
水天需

ほう。上卦(外卦)が「水」で、下卦(内卦)が「天」か。
「水天需(すいてんじゅ)」か・・・・・
そう、悪くは無いな。

あ~~、良かった。
で、私、いつ始めれば良いですか?
すぐって、駄目ですか?

ふぉふぉふぉ・・・
お嬢さん、今から解説するぞ。

は、はい。お願いします!

お嬢さんの出した卦は、「水天需」と言ってな、易の六十四卦の中でも、5番目に当たる卦じゃよ。
これは、「水が天に上るのを待つ」と言うもんじゃよ。つまり、「待ち」の姿勢が吉なんじゃ。
需は孚(まこと)あり。光(おお)いに亨(とお)る。貞吉(ていきつ)。大川を渉(わた)るに利(よ)ろし。
簡単に訳すと、「時が来るのを余裕を持って待つと、物事は上手く捗る」と言う意味じゃ。

はぁ~~~、がっくりです。
私、当面、待ちなんですね。

これこれ、わしの話を、もうちょっと聞からっしゃい。
お嬢さんの振ったサイコロには、2種類あると言ったじゃろ。
漢数字は、爻(こう)と言って、出た卦の対処法を表すんじゃよ。
初爻:郊(こう)に需(ま)つ。恒を用いるに利ろし。咎(とが)なし
  時期尚早。動くな。
二爻:沙(しゃ)に需つ。小(すこ)しく言有れど終に吉
  例え、非難される事があっても、自分から動かず待て。
三爻:泥(でい)に需つ。冦(あだ)の至るを致す
  自ら進めば、災難が待ち受けている。
四爻:血に需つ。穴より出ず
  大変な時期ではあるが、耐えて待つ。
五爻:酒食に需つ。貞吉
  飲食をしている時のように、楽しみつつ待つ。
上爻:穴に入る。速(まね)かざるの客三人来るあり。之(これ)を敬すれば終(つい)に吉
  思いがけない状況になるが、誠心誠意で事に当たって待つ。

さて、お嬢さんのサイコロの漢数字は、いくつじゃったかな?

「三」でした。
つまり、このまま進めば、災難が待ち受けているのですね。
何だか、余計、がっくり来ました。
通うスクールも、ほぼ決まっているのに・・・・
やっぱり、やらない方がいいんですか?

易は、「待て」と言っておる。
それでも、やりたいのなら、覚悟を持ってやりなされ。
お嬢さんの人生じゃから、わしは止めはせん。
若いうちにこそ、失敗も成功も、経験しなければいけんしな。
そもそも、
今の仕事をしつつ通うなら、時間は、金銭は、大丈夫なのか?
仕事を辞めて、集中的に通って、その後に仕事を探すのなら、その間の生活は大丈夫なのか?
そういう事をきちんとシュミレーション出来ていれば良いんじゃが・・・・

自分では、シュミレーション出来ているつもりですが、こういう卦が出たのは、やはり、今の段階では、準備不足を表しているのかも知れませんね。
仕事をしつつなら、お金の方は、大丈夫なんですが、時間の方を言われると、難しいです。
仕事を辞める方は、今の貯金だと無理です。
う~~~~ん、ちょっぴり残念な結果のように思えますけど、せっかく、占って頂いたので、結果は大切にしたいです。

わしは、お嬢さんの夢や憧れを壊す気持ちは、さらさらないぞ。
インターネットのクリエーターさんになりたい。
でも、今の状況が難しいなら、今の状況でも、クリエーターさんに近づける事は何か?
こんな爺さんのわしでも、ネットでの仕事と言えば、
ブログ開設、WEBライターやデータ入力のアルバイト、オンラインのスクールに通う、ネットフリマなんかも思いつくぞ。

あ、そうですね。
仕事と両立出来るものを決めて行きます。
私、まだブログをしていないから、ブログがいいかな?
お爺さんとの出会いを記事にしたりなんかして・・・・

有難うございます。
私、京都の人に、こんなに親切にして貰ったのは初めてです。
お爺さんって、占い師さんなんですか?

ふぉふぉふぉ・・・
京都の人間は、わしみたいに、本当は親切な人間じゃよ。
ちょっぴり人見知りがキツイかな?
わしは、占い師では無いぞ。
ただの爺さんと言う事にしておこう。

ああ、残念。
お爺さんのお名前をお聞きしたかったのに・・・・

そうだ。
今から、私、ホテルに行ってチェックインするんですけど、御礼に、その後、御茶でも飲みませんか?

ひゃぁ~~~。
嬉しい事を言ってくれるのう。
どこのホテルに行きなさる?

四条烏丸(しじょうからすま)にあるホテルです。

それなら、ここから歩いても知れておる。
途中に、わしの一押しの「茶房」もあるぞ。
後で、そこへ行くのが良かろうな。

あ、嬉しいです。
お爺さん、行きましょう!

そうして、二人が立ち上がろうとした時、突然、隣に座っていたカップルの方の女性が、二人を呼び止めました。

あのう、すみません。
先ほどから、聞くともなしに、お二人のお話を聞いてしまった者です。
実は、お願いがあります。
私の話を聞いて貰えませんか?
お爺さん、お願いします!

さあ、大変な事になりました。お爺さんも、お嬢さんもびっくりです。この後、二人は、いえ、新たに登場した女性は、どうなるのでしょうか?

龍
続く