【気学】「六十四卦物語ー6:天水訟(てんすいしょう)」

ここは、京都。鴨川の、三条大橋と四条大橋のちょうど、中間の辺りの河川敷に、不思議なお爺さんが、観光客のお嬢さんと居てます。先ほどまで、彼女の易を立てたばかりです。二人が、ここから去ろうとした時、横に座っていたカップルの女性から、いきなり声を掛けられました。一体、何が起こったのでしょうか?お爺さんは、この場を、どう治めるのでしょうか?

あのう、お爺さん、誠に厚かましいお願いですが、私の事を占って頂けますか?
先ほどから、お二人の会話を聞いてしまい、気になって、気になって・・・・・

えぇ?
構わんと言えば、構わんが・・・・
こちらのお嬢さんには、お連れさんが、いらっしゃるじゃろ。
お連れさんは、どうお思いじゃ?

う~~~~ん、
僕は、易の事なんて、良くわからないです。
でも、彼女が悩んでいるのも事実です。
お爺さんさえ良ければ、相談に乗って下さい。
お願いします!

観光客のお嬢さん、わしが占っても構わんかのう?
ホテルの方は、大丈夫かな?

大丈夫です。
私、お爺さんと居ると、勉強になりますし。
他の人の易を立てた際の、結果にも興味があります。

では、やってみようかのう。
ところで、彼女さんのお悩みは、何じゃ?

実は、私、隣の彼と付き合って、2年目です。大学からの付き合いです。
職場の人にも、私に彼氏が居る事を話しています。
でも、最近、私に対し、アレコレ言ってくる上司が居て、困ってます。

ほぅ~~、今、流行りの「パワハラ」かのう?
それとも、「セクハラ」かのう?

どちらかと言うと、パワハラに近い感じです。
男性の上司なんですけど、最近、コロナで業務内容や人員配置が変わりました。
私を含め、3人が、上司の元に配置されました。
特に、インターネットでの遣り取りの仕事が増えたので、そういう仕事を、私たち部下に押し付けてきます。
わざと終業間近に押し付けてくるので、いつも残業になってしまいます。
私は、まだ2年目なので従うしかありません。
私以外の、同じセクションの人たちも困っています。

それは、困ったことじゃな。
お嬢さんは、どうしたいんじゃ?

どうしたいって・・・
毎日、顔を会わすのも苦痛な気分です。
どこかに行ってくれればいいと思っています。

深刻じゃな。
今まで、誰か、その事を、上司より、もっと上の人に言った事があるのかのう?

いいえ、それはありません。
みんな、仕返しが怖くて、していません。

ほう、・・・
それは、深刻なお悩みじゃ。
では、このサイコロで占ってみようかのう。
お嬢さん、良いかな?
このサイコロで占う遣り方は、「二者択一」が、一番、適しておる。
「どうしたら、良いでしょうか?」では無く、「~~を決めたら、どうなりますか?」の方が、良いぞ。

はい。
では、サイコロをお借りします。
私の願いでは、「このまま、我慢しておくべきでしょうか?」です。

エイ・・・・

お嬢さんのサイコロが、転がりました。

お爺さんの風呂敷の上に、3つのサイコロが、互いに、かなり離れてますが、その「目=卦」を表しました。

お爺さんは、言いました。

06天水訟

う~~~ん、これまた、厳しい結果じゃな。
「天水訟(てんすいしょう)」じゃ。
お嬢さん、正直に言って良いかな?

はい、是非、お願いします。
たとえ、良くない結果となっても、それは仕方が無い事です。
私が振った結果です。
怖いけど、聞きたいです。

良し、それなら、正直に言うぞ。
お嬢さんの出した「卦」は、「天水訟」と言って、これはな、漢字の方から説明すると、
上卦の「天」は、上へ登ろうとする。
下卦の「水」は、下へ流れようとする。
「訟」は、「訴える」と言う意味で、互いが自己主張して歩み寄れない、と言うものじゃ。

まさしく、今の私と上司の関係ですね。
対処法は、あるのですか?

そこでじゃ、お嬢さんの振ったサイコロの漢数字が書いてあるものは、その数字が「三」じゃ。

「天水訟」の大成卦、総合的な意味では、
訟は孚(まこと)有りて窒(ふさ)がる。惕(おそ)れて中(ちゅう)すれば吉。終われば凶。大人を見るに利(よ)ろし。大川(たいせん)を渉(わた)るに利ろしからず
先ほどの漢字の説明のように、「互いが不和ゆえ、上手く物事を成就させられない。争いは不利。公明正大な人に仲裁を頼むのが良い。」

「爻(こう)」は、簡単に言うなら、対処法じゃ。
初爻:事する所を永くせず。小(すこ)しく言あるも、終に吉
不満があっても訴えずに諦めて居れば、最後は吉となる。

二爻:訟を克(よ)くせず。歸(かえ)りて逋(のが)る。其(そ)の邑人(ゆうじん)三百戸、眚(わざわ)いなし
訴えは、最後までやってはいけない。その方が、皆が幸せになる。

 
三爻:舊(きゅう)徳に食(は)む。貞(かた)くすれば厲(あや)うきも終(つい)に吉。或(ある)いは王事(おうじ)に従うも、成(な)すこと無し
訴える事無く、平常心を持ち続け、通常の使命を行っていれば、最後には吉となる。


四爻:訟(しょう)を克(よ)くせず、復(かえ)りて命につき、渝(かえ)て貞(てい)に安んずれば吉
訴えても、それを辞めて、己の使命に従う事で吉となる。

五爻:訟(しょう)、元(げん)吉
訴えは、聞き入れられ吉となる。

上爻:或いは之(これ)に鞶帯(ばんたい)を錫(たま)う。終朝(しゅうちょう)三たび之を褫(ひ)く
訴えて勝とうとも、長続きはせず、他人から恨みを買う。

ああ~~~~。
我慢し続けなければならないのですね。
どこにも、訴えず、このまま鬱々とした気持ちを持ち続けて、本当に良くなるのですか?

そうじゃな。
今は、苦しいとは思う。
だがのう、感情が先走ってしまい、自爆するような事だけは慎まんとな。
お嬢さんが、上司の上の人に直訴しても、今の時点では解決には繋がらんと言うことじゃ。
仕事である以上、チームワークが求められる。
同僚の人たちとも歩調を合わさねばならんぞ。

ねえ、あのさ、今の時期は動いても無駄なら、証拠集めしたら?
上司の上司に、いつか言う機会があっても、説得できるものが無いと駄目だと思うけど。・・・・

証拠集め?

うん、業務日誌と言うか、メモと言うか、上司との遣り取りを記録しておくんだ。
残業の内容なんかは、特にね。

あ、それって、いいかも・・・・
いつか、話し合いの場があった際の、証拠と言うか、たたき台になるかも。

ほう~~~~、面白いのう。
「三人寄れば文殊の知恵」じゃな。

仕事をする以上、皆、生活がかかっておるはずじゃ。
ただ、仕事をする過程で不具合があれば、是正しなくてはならん。
何も好んで、喧嘩をするものでは無い。
前向きな方向性を持って、事に当たらねば禍根を残すぞ。

本当にそうですね。
同僚たちにも、この事を話してみます。
上司の面子を潰さず、上手くやれるよう考えます。
有難うございました。
なんか、スッキリした感じがします。

いや、いや。・・・
わしのした事は、易の卦の話だけで、それを、どう活かすかは、わし以外の3人で考えたようなものじゃ。
易の卦を受けて、心が定まれば、自ずと実際の対処も見えてくると言うもんじゃよ。

お爺さんって、本当に凄いですね。
やっぱり、本職の占い師さんなのでは?

ふぉふぉふぉ・・・
わしは、市井の片隅に居る年寄りじゃよ。

そんな事は無いはずですよ。
う~~~~ん、何てお呼びすれば良いのかな?
仙人?

導師は、どうかしら?

呼び名など、どうでも良いよ。
さて、こちらの観光客のお嬢さんを、四条烏丸のホテルまで案内せにゃならん。
その後、茶房にも案内せにゃならんしな。
では、御二方(おふたかた)、これで失礼するぞ。

あぁ、そうなんですか?
僕たち、付いて行っていいですか?
まだまだ話をお聞きしたいです。

私たち、京都の地元民なので、こちらの方に色々、教えてあげる事が出来ますよ。
是非、お願いします。
4人で、御茶しませんか?

お嬢さん、どうなさる?
お嬢さんが決められたら良かろう。

私こそ、皆さんと御一緒したいです。
一人旅だし、京都の人と仲良くなれるチャンスです!

そうか・・・・
じゃあ、四条大橋まで河川敷を歩いて、そこから橋を上がって、四条通りを西にずっと進むとしようかのう。
人が多いから、気を付けねば、はぐれるぞ。
ホテルでチェックインした後の茶房の和菓子は、何が良いかのう?・・・

僕、甘いものが苦手で・・・・

私は、お薄と生菓子が、いいです。

私、抹茶パフェが食べたいです。

ぷっ・・・、
三者三様じゃな。
それでは、甘いものが苦手な男子でも大丈夫の和菓子をご紹介しようか。
何事も修行じゃ、修行・・・・・
では、行くぞ!

こうして、4人は、河川敷から立ち上がり、四条大橋まで来ました。橋の上に上がろうとした時、東の八坂神社の方から、いきなり「ザァー」と言う音と共に、季節外れの雨が降ってきました。河川敷に居る人たちや、橋を渡っている人たちも、皆、一様に小走りに駆け出しました。お爺さんたち4人も、同様に急いで、橋の上に上がり、四条通の東側のアーケードまで辿り着きました。

びっくりです。こんな時に、雨が降ってくるなんて・・・・
お爺さん、大丈夫ですか?

ははは、・・・・
大丈夫じゃよ。
しかし、あやつは、いたずら者じゃな。
何も、わし目掛けて、雨なぞ降らさんでも良いのにのう。
遊んで欲しいからかのう?
後で、行ってやらねばならんようになったな?

・・・・・・・?・・・・・・・・・

・・・・・・・?・・・・・・・・・

・・・・・・・?・・・・・・・・・

ははは、さぁ、行こう、行こう!
和菓子が、わしらを待っておる。

お爺さんを先頭にして、四条通りの人ごみの中を歩く4人です。

さて、この後、どうなったのでしょうか?

・・・・・・

龍
つづく