【気学】「六十四卦物語ー7:地水師(ちすいし)」

ここは、京都の四条烏丸近くの佛広寺(ぶっこうじ:通称、仏光寺)です。不思議なお爺さんと京都が好きな観光客のお嬢さん。そして、地元民のカップル。何とも変わった組み合わせの4人が、仏光寺にある茶房(カフェ)でお喋りをしています。さて、今回の「易」にまつわる話題は、何でしょうか?おや、カップルの男性のお悩みのようです。

お爺さん、このお店、本当にいいですね。
お寺の中に、カフェがあるなんて。・・・
それに、京都の色んなクラフトが置いてあるショップも併設してあるので、楽しいですね。
地元民の僕でも来たことが無かったです。
それに、ほうじ茶が、こんなに美味しいと思いませんでした。

ふぉふぉふぉ・・・、そうじゃろ、そうじゃろ。
何しろ、柳桜園さんの所のもんじゃしな。

あら、抹茶クリーム生麩あんみつだって、美味しいですよ。
生麩が、渋いです!

ああ~~~~。
やっぱり、お薄と手焼き最中が、最高!

ところで、私が、さっき易をして貰ったから、今度は、あなたがして貰ったら?

う~~~ん、
でも、恥ずかしいな。

ほう、何か、お悩みがあるのかのう?
遠慮は要らんよ。
言って気楽になれるのなら、構わんよ。

う~~~ん、では、お言葉に甘えさせて貰います。
実は、僕の家で、1か月ほど前に、父方の祖父が急に亡くなったんです。
家族も、僕も、ショックで、・・・
でも、相続の話が上手く行ってないんです。父は、3人兄弟の長男で、下に妹、弟が居ます。
祖母は既に亡くなっていて、祖父の遺産は、住んでいた30坪程の家と生命保険金と現預金少々くらいだそうです。
ただ、その家は、京都市内の「田の字エリア」にあり、交通の便も、とても良いのです。
今回の相続については、少しだけ相続税を申告しないといけないようなので、後9カ月の猶予期間があります。

それで、その家の件が問題なのです。
実は、父の妹、僕の叔母は、「私が、そこに住みたい。」と言ってるそうです。
すると、父の弟、僕の叔父も、「僕だって、そこに住みたい。」と言い出しました。
二人とも、家族が居て、現在、賃貸のマンションに住んでいるので、自分たち家族が住みたいと思っているようなのです。
もし自分が住むのなら、不動産会社に、その家の時価評価額を出して貰い、遺産相続で均分相続した金額以上になれば、ローンを組んで自己負担するとの事です。

父は、長男として、まとめなければと思い、もめたくないので、
「家を売って、現金化して分ければ良い。その上で、好きな所で家を購入すれば良い。」と言ったそうです。
しかし、二人とも、祖父の家は、立地が良い場所なので、互いに譲ろうとしません。
父は、二人の間に立って困っているようなのです。
何か、物凄く身内の話で申し訳ないんですけど、・・・
お爺さん、どう思われますか?

いや、いや、身内の話で構わんよ。
父親の事を、気に掛けてるのは、お主が心優しいからじゃしな。
では、易を立てて見なさるかのう?

はい、お願いします。
今、父が動くべきかどうか、でしてみます。

そうして、お爺さんは、テーブルの上に風呂敷を敷きました。

男性は、真剣な表情で、手の中のサイコロを揺らしています。

「エイ!」と言う男性の言葉と共に、風呂敷の上にサイコロが転がり落ちました。

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地水師

ほう、これは、これは、・・・・
何と言うべきか、・・・・
う~~~ん、・・・・

あぁ~~~、あまり良くない卦なのですね。
飼わない方がいいのですか?

では、説明するぞ。
今回の卦は、「地水師(ちすいし)」じゃ。卦辞は、
師は貞(ただ)し。丈人(じょうじん)は吉。咎(とが)なし
立派な人物が率いる軍隊であれば、たとえ戦うことがあっても、大丈夫である。

「地水師」とは、漢字から説明すると、「地」と「水」と「師」じゃ。
この場合、「地」は、大地で、その下に「水」が来ておる。つまり、大地に隠れている伏流水や地下水のようなものじゃ。この水は軍隊であり、天変地異でもあれば、一挙に表面化する。
「師」は「戦い」を意味する。師匠では無いぞ。

すると、父は、戦うべきなのでしょうか?

これこれ、早まるでないぞ。
数字の「爻(こう)」を表すサイコロの解説が、まだだぞ。
今回、お主の出したサイコロの卦(目)は、「五」じゃ。

一応、初爻から、上爻まで言っておくぞ。
初爻:師は出(い)づるに律を以てす。否(しか)らざれば臧(よ)きも凶
   戦いの始まりは、規律(ルール)が肝心。さもないと、勝っても後で災いを招く。

二爻:師、中(ちゅう)に在り吉。咎(とが)なし。王(おう)三たび命(めい)を錫(たま)う
   有能な指揮官のお陰で勝利し、何度も、王様から褒美を得られる。

三爻:師、或いは尸(しかばね)を輿(にな)う。凶
   戦いは、上手く行かず、戦死者を出し、車に乗せて戻る凶事となる。

四爻:師、左次(さじ)す。咎(とが)なし
   戦いに於いて、退却し、災難を回避する。

五爻:田に禽(きん)あり。執言(しつげん)に利(よ)ろし。咎なし。長子(ちょうし)師を帥(ひき)ゆ。弟子尸(しかばね)を輿(にな)う。貞(よろ)しけれども凶
  賊に対しては、戦うのが良い。立派な指揮官に任せないと、戦死者を出す。そうでないと、凶となる。

上爻:大君(たいくん)命(めい)あり。国を開き家を承(う)く。小人(しょうじん)用(もち)うる勿(なか)れ
   大君(王)は、戦いに勝利した後、立派な指揮官には土地などの恩賞を与え、つまらない人物には与えるべきではない。

となるんじゃ。
つまり・・・・・

そうですか・・・・
父の取るべき態度は、「五」なので、父より、目上や力のある人が、仲裁に入るべきなんですね。

そういう事じゃよ。
こじれたくないのは、皆、同じとは思いたいが、今は、互いの感情が先走り、話にならんじゃろ。

そうですね。
祖父のお葬式の後、2度、話し合いの場を持ったみたいですが、駄目だったと父が言ってました。

凄い話ですね。
所謂、「争族」になりかけないようにするには、大変ですね。
でも、今後、上手く行かなければ、親戚を頼るよりも、費用を掛けても弁護士さんに相談するのが、ベストでは?

私も、そう思うわ。
変に、親戚の年長者に頼るよりも、いいかも知れないし。・・・

ふ~~~む。
ビジネスライクに事を行う方が、今後の兄弟関係には良いかも知れぬ。

それでも、本来ならば、昔のように、親族に、長老が居れば、良いのになぁ。
残念な御時勢じゃのう・・・・

お爺さん、有難うございました。
今日、この後、家に帰って父に、この事を言ってみます。
父だって、最終手段の弁護士さんの事を考えていない訳では無いと思います。
まだ、後9カ月はあるので、時間の経過を見つつ進めて行く事になるでしょう。

ふむ、そうじゃな。
先ず、お主の父親の覚悟あっての事じゃ。
三人兄弟の兄としてのな。
一見、損な役回りじゃが、これをきちんと果たす事が、兄の使命じゃな。

はい、その事も、父に伝えます。
お爺さんに出会えて、少し気が楽になった気がします。
サイコロって、凄いですね。

ふぉふぉふぉ・・・
サイコロと言わずに、「易の略筮法(りゃくぜいほう)」と言って欲しかったが、まぁ、良い。
しかし、何でもかんでも「占い」に頼るのは、いかんぞ。
本当に、解決したい事があって、易を立てると、きちんと結果が出てくるもんじゃよ。

どれ、お茶も飲んだし、もう夕方が近い。観光客のお嬢さんも疲れたじゃろ。
これで解散にしようかのう?

お爺さん、今日は、本当に有難うございました。
レアな京都体験をした感じです。
そして、お二人さんに会えた事も嬉しかったです。
いつか、東京に来られた時は、私、案内しますよ。

あ、嬉しいわぁ・・・・
この後、飲みに行く?
ええとこ、あるねん。

わぁ~~~、嬉しい。
行きます!
連れて行って下さい。

こうして、4人は、お店を後にしました。ここ仏光寺には、有名な桜の大木があります。お爺さんは、スタスタと一人、大師堂前の桜の大木の方へ歩き出しました。3人も、少し遅れて後に続きました。先にお爺さんが、桜の大木の反対側に行きました。続いて、3人も行きましたが、お爺さんが居ません。

何でやろ?
お爺さん、居てはらへん?

本当だわ。
お爺さん、どこにいらっしゃるのかしら?

ええ?
そんな事あるん?

それから、3人は、薄暗くなった境内や先ほどまで居たお店を隈なく探しましたが、お爺さんは、居ませんでした。

何度も何度も探しましたが、結局、お爺さんには会えませんでした。

仕方なく、3人は、その場を後にする事にしました。

一体、お爺さんは、どこに行ってしまったのでしょう?

龍
つづく